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第12回モンド王座決定戦観戦記 文:鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)
【一連の所作】
オーラス。
アガリを宣言する。
倒牌する。
点棒を授受する。
挨拶する。
席を立つ。
泣く。
魚谷は、号泣した。
1年前のことである。
オーラスを自身のアガリで制し、魚谷はモンド王座に返り咲いた。
防衛戦となる今大会、魚谷は「1年間、この日を待っていた」とコメント。
その表情は、ギラギラとした挑戦者のようだった。
<出場者>
魚谷侑未(日本プロ麻雀連盟所属・現モンド王座)
茅森早香(最高位戦日本プロ麻雀協会所属・2016女流モンド杯優勝)
井出康平(日本プロ麻雀連盟所属・2016モンド杯優勝)
近藤誠一(最高位戦日本プロ麻雀協会所属・2016モンド名人戦優勝)
▼▼▼1回戦▼▼▼
起家から茅森、近藤、井出、魚谷
【帰ってきた天才】
東2局ドラ
近藤24000 井出27000 魚谷25000 茅森24000
女流モンド杯を制し、モンド王座に茅森が帰ってきた。
茅森はオーソドックスなタイプだが、時折見せる鋭い打牌から、いつしか「天才すぎるオンナ雀士」と呼ばれるようになった。
その茅森が7巡目に選択。
が1枚切れであるため、後の変化を見るなら辺りを打 ち、マンズの変化を待つ選択もある。
一方、茅森は真っ直ぐを打ち抜いた。
すると、これが最速にして最高打点。
ツモ(一発) ドラウラ
真っ直ぐに打っていなければ取れなかったかもしれない2000・4000で、茅森が先制する。
東3局ドラ
井出25000 魚谷23000 茅森32000 近藤20000
今年度の女流モンド杯で茅森に惜敗を喫した魚谷も、負けじと茅森を追う。
6巡目に、7巡目にと連続でポンしてすぐに井出か らを出アガり、5200。
ポン ポン ロン
実は魚谷、ポンのとき、から、前巡のに続けてを先切りしていた。
その後が通ったところで、待ちが完全に死角に入り 、井出が放銃する。
手を広げるだけがスピードではない。
最速マーメイド・魚谷らしい、「アガリまでの最速手順」が炸裂した。
東4局ドラ
魚谷28200 茅森32000 近藤20000 井出19800
しかし、茅森の攻撃が止まらない。
9巡目リーチをかけると、近藤の追いかけリーチを振り切ってツモ。
ツモ ドラウラ
ウラが2枚乗って3000・6000。
南1局ドラ
茅森45000 近藤16000 井出16800 魚谷22200
次局のオヤ番でも茅森が4巡目リーチ。
ツモ(一発) ドラウラ
これが一発ツモウラ1となり、強烈な4000オールで下位を4万点離したダントツとなった。
南1局1本場ドラ
茅森57000 近藤12000 井出12800 魚谷18200
今日の茅森は、リーチだけでなく、仕掛けも鋭い。
続く1本場では、10巡目にここからあっさりをポン。ドラの切りでテンパイに取る。
ここに、魚谷からリーチがかかるが、すぐに茅森がツモの1000は1100オールでかわした。
ポン ツモ
ドラに引きずられてポンテンを取らなければこのタイミングでかわせてはいなかった。
【井出の流儀】
南1局2本場ドラ
茅森61300 近藤10900 井出11700 魚谷16100
井出のリーチは基本的に高い。高くなければ好形である。
例えば、今流行りの「カンチャンドラ1」といったリーチが少ない。
もちろん待ちが良ければ愚形でもリーチなのだが、状況の読めない愚形ではリーチしないのが井出流。
すなわち、淡白にリーチしないのが井出の流儀というわけだ。
その井出が8巡目リーチをすぐにツモって2000・4000。トップ目茅森にオヤかぶりさせる。
ツモ ドラウラ
やはり、きっちり高い。
南3局ドラ
井出18400 魚谷18900 茅森55200 近藤7500
オヤ番を迎えた井出に、6巡目カンテンパイが入った。
戦術的な流行りでいえば、即リーチということになるのだろうか。
しかし、井出はヤミテンを選択。
すると、を引き、待ちに替えて9巡目リーチ。
これが、井出の流儀である。
このリーチを受けた10巡目の茅森。
ツモ
現物がの1枚だけであるため、ドラアンコのイーシャンテンを維持する打とした。
ロン ドラウラ
これが井出に放銃となり、ウラが乗って12000。
茅森にとっては手痛い放銃となる。
南4局1本場ドラ
魚谷19800 茅森40100 近藤14800 井出25300
しかし、井出の追い上げもここまで。
ポン
オーラス、茅森がをポンしてすぐにカンテンパイ を果たすと、ここから流れるように、ツモ打、ツモ 打、ツモ打ときて、場に安いピンズ待ちでアガリ切り、初戦をトップで飾 った。
ポン ツモ
<1回戦結果>
茅森 51.9
井出 4.8
魚谷 ▲21.0
近藤 ▲35.7
▼▼▼2回戦▼▼▼
起家から茅森、近藤、井出、魚谷
東1局ドラ
12巡目に茅森がオヤリーチ
茅森がまだまだ走るのか。
しかし、1回戦で追い上げを見せた井出が止めにいく。
14巡目に井出がドラをアンコにして追いかけリーチ。
ツモ ドラウラ
すぐにツモアガり、3000・6000で前回トップの茅森にオヤかぶりさせつつ先制した。
【魚谷の2600オール】
東3局1本場供託1000ドラ
井出37000 魚谷24000 茅森17000 近藤21000
私は、魚谷の持ち味はオヤでの2600オールや2000オールにあると思っている。
その魚谷がオヤ番で10巡目リーチ。
ドラ
これに対し、茅森はダマテン。
ここに、井出が追いかけリーチを放った。
しかし、直後に魚谷がツモアガリ。
ツモ ドラウラ
ウラが乗って2600オールだ。
一手替わり三色でも、良い待ちですんなりリーチしてツモウラ。
これが魚谷のベースである。
【感覚派・近藤vs最速マーメイド・魚谷】
東4局1本場ドラ
魚谷35100 茅森13100 近藤18400 井出33400
ここまで常に原点以下の持ち点に抑え込まれている近藤。
アンコでチャンタ三色が見えるが、井出が1巡目に自風のをポンしていることもあり、門前で仕上げるには苦しそうな配牌。
しかし、ここから近藤のチャンタ寄せが一気にはまり、イーシャンテンに構えると、9巡目にツモで少考。
ツモ
が3枚見えたこのタイミングで打といった。
これが大正解。
このテンパイから、さらに引いて打。
自風のをポンしていた井出が終盤に
ポン
ここから近藤のをポンして打でテンパイを組み、近 藤に捕まった。
ロン
チャンタサンアンコ白中という珍しい手役で12000は12300。
近藤がこのアガリで久しぶりに地上に顔を出し、魚谷追走の1番手となった。
南1局1本場供託1000ドラ
茅森13600 近藤32200 井出19600 魚谷33600
しかし、トップを明け渡すわけにはいかない魚谷も逃げる。8巡目にこのリーチ。
3枚切れの苦しいリーチだったが、すぐに茅森が掴んで8000は8300。
ロン ドラウラ
近藤を突き放した。
南3局ドラ
井出17600 魚谷40900 茅森13300 近藤28200
オーラスを前にして、ついにトップ争いの魚谷・近藤がぶつかる。
近藤がピンズに寄せ、11巡目にチンイツテンパイ。
待ちだ。
一方、魚谷もテンパイしていた。
9
ただ、どの手替わりでも近藤に放銃となってしまう。
これは、9割以上近藤のアガリなのではないだろうか。
しかも、手替わり時に最も出る可能性が高いだと、近藤に16000放銃。
魚谷、大ピンチ。
その結末は・・・
9 ツモ
なんと、魚谷がラス牌のツモ。
もう少しで手が届きそうだった人魚が、近藤の目の前をすっと通り過ぎていった。
<2回戦結果>
魚谷 52.6
近藤 10.5
井出 ▲24.2
茅森 ▲38.9
<2回戦終了時トータル>
魚谷 31.6
茅森 13.0
井出 ▲19.4
近藤 ▲25.2
2回戦目で上下の差が詰まったため、次戦を取った者が一歩抜ける展開となりそうだ。
【続・近藤vs魚谷】
▼▼▼3回戦▼▼▼
起家から、魚谷、茅森、近藤、井出
東2局1本場ドラ
茅森32300 近藤21700 井出23000 魚谷23000
ロン ドラ
茅森が先行するも、ダブ東を仕掛けていた茅森から魚谷が8000は8300。
これで魚谷がトップ目に立つ。
東3局1本場ドラ
近藤25600 井出19100 魚谷31300 茅森24000
ツモ ドラウラ
近藤も2600は2700オールで魚谷をまくっていった。
東3局2本場ドラ
近藤33700 井出16400 魚谷28600 茅森21300
そして、2本場で再び近藤と魚谷がぶつかる。
まずは近藤がこのリーチ。カンチャンながら、はヤマに4枚残っている。
しかし、追いかけリーチの魚谷が近藤からドラを打ち取り、8000は8600。
ロン ドラウラ
すぐに近藤をまくり返した。
東4局2本場ドラ
井出21200 魚谷38200 茅森19500 近藤21100
ところが、これに屈する近藤ではない。すぐに大物手に仕上げてリーチをかける。
すると、魚谷が同巡にをチーしてテンパイ。
チー
近藤vs魚谷、第2ラウンドの行方は・・・
ロン ドラウラ
イーシャンテンの井出がツモ切りで近藤が8000は8600をアガった。
南1局ドラ
魚谷38200 茅森19500 近藤29700 井出12600
すると、南入しても近藤が畳みかける。
ツモ ドラウラ
この8巡目リーチをすぐにツモって2000・4000。
近藤が再び魚谷をまくった。
【魚谷の踏み込み】
南2局ドラ
茅森17500 近藤37700 井出10600 魚谷34200
茅森がスーアンコに目もくれず、ここから即リーチ。
ツモ
これに対し、魚谷がチー勝負でこのテンパイ。
チー
が茅森の現物だ。
この辺りの魚谷の踏み込みについて、井出は今回の魚谷をこう評した。
「『無難な得』ではなく、リスクを負って『優勝するための真の得』を的確に積み重ねていた」
そして、この魚谷のリスクを負った踏み込みが茅森のを捕え、2000で茅森のオヤリーチをかわす。
南3局1本場ドラ
近藤40700 井出9600 魚谷36200 茅森13500
すると、ラス前では、魚谷が7巡目にここから躊躇なくをポン。
次巡にをツモって最速の1300・2600とし、トップ目でオーラスを迎えることに成功する。
南4局6本場ドラ
井出22400 魚谷40000 茅森6400 近藤31200
すると、6本場まで積んだオヤ井出の攻撃にしっかりと対応しつつ、反撃の機会を待っていた魚谷がすっと動く。
ここから4巡目のをチーして打とし、タンヤオのイー シャンテンに構えると、すぐにを引いてテンパイ。
チー ツモ
を切ってのカンツモで選択を間違えずにアガり切り 、2連勝を飾った。
<3回戦結果>
魚谷 53.1
近藤 10.3
井出 ▲18.7
茅森 ▲44.5
<3回戦終了時トータル>
魚谷 84.5
近藤 ▲14.9
茅森 ▲31.5
井出 ▲38.1
魚谷が1人抜ける展開となったため、魚谷以外の3者は魚谷をラスに沈めての大トップを目指すこととなる。
【続・魚谷の踏み込み】
▼▼▼4回戦(最終戦)▼▼▼
起家から近藤、井出、茅森、魚谷
東1局ドラ
最終戦でも魚谷が攻め続ける。ここから4巡目にチーしてこのテンパイ。
チー
しかし、北家の魚谷にとって、これは形テンである。
すると、ここに、と引いて、すぐに近藤からツモ切 られたで3900。
チー ロン
東3局ドラ
茅森24000 魚谷29900 近藤21100 井出25000
ツモ
魚谷が茅森のダブポンに対しては、ここからドラを 打ってテンパイを取る。
すると、井出からリーチ。
ここに、を掴んだ魚谷。
ツモ
井出のリーチに対しては、アタリ牌を止めて冷静に現物を抜いていき、流局で凌ぐ。
絶妙なブレーキング感覚だ。
南1局ドラ
近藤20600 井出30700 茅森25500 魚谷23200
その後、大きな点数移動がなく南入。
魚谷にとって、近藤のこのオヤ番が一番の勝負所である。
すると、仕掛けやダマテンでかわしていた魚谷が、意を決したかのように、リーチで決めにいった。
これに対して、一発目の近藤。
ツモ
安全牌はだけだが、を打ってしまうとかなり厳しい 。
長考に沈む近藤。
近藤の選択は無スジの切り。
すると、ここから近藤が動く。
次巡のをチーし、いったん打とし、を止める。
3巡目の切りから、かが手の内にあり、トップ目の魚谷がリーチにくる以上、良い待ちであるため、ここが待ちになっている可能性が高いという読みだ。
その後、が通ってスジになるとを打ち、チー打でこう。
チー チー
そしてついに、ツモでテンパイを果たす。
チー チー
すると、魚谷が掴んだで1500をアガリ、奇跡のオヤ権死守。
南1局1本場ドラ
近藤23100 井出30700 茅森25500 魚谷20700
しかし、1本場では、井出のシャンポンリーチが決まる。
ツモ ドラウラ
2000・4000のオヤかぶりで、大逆転を狙う近藤にとっては、痛恨のオヤ落ちである。
南2局1本場ドラ
井出41500 茅森23400 魚谷17100 近藤18000
すると、ここでも魚谷が躍動。
5巡目、魚谷はここからチー打とする。
直後に井出からもポンして強引にシャンテン数を上げていく。
ポン チー
チーまでは理解できるが、オヤの現物をなくしてまでシャンテン数を上げるポンには、鬼気迫るものを感じる。
すると、時間はかかったが、を2枚引いてテンパイ。
ポン チー
井出が12巡目にリーチ宣言する。
ツモ
その宣言牌を魚谷が捕えて1000は1300。
ノーガードで踏み込み、魚谷が井出のオヤも終わらせる。
南3局ドラ
茅森23400 魚谷18400 近藤18000 井出40200
ここでも、魚谷があっさりチーテン。
チ ー
これは楽勝かと思われたが、すぐに茅森からオヤリーチがかかる。
このリーチに対し、無スジのと押していく魚谷。
すると、近藤にもテンパイが入った。
ツモ
長考の近藤。
ダマテンでもマンガンあり、は茅森の現物であるため、出アガリの是非について考えているのだろう。
しかし、近藤の選択は追いかけリーチ。
この局でのハネマンを目指した。
2軒リーチとなっても、魚谷の踏み込みは変わらない。
近藤のリーチ一発目、両者に通っていないを魚谷はツモ切った。
そして、次巡、魚谷はも躊躇なく打つ。
ロン ドラウラ
近藤の8000直撃。
これで、近藤はオーラスに条件を残した。
【一生分の運を使い果たしてもいいから】
南4局ドラ
魚谷10400 近藤27000 井出40200 茅森22400
優勝条件は下記。
魚谷→流局ノーテン宣言
近藤→倍満ツモか魚谷直撃
井出→3倍満ツモか魚谷直撃
茅森→役満ツモか3倍満魚谷直撃
最も現実的な条件が残っている近藤の配牌。
ツモ
倍満など見る影もないが、近藤は丁寧に倍満を追っていく。
長考の末、マンズとソウズに色を絞る打とした。
3巡目。
ツモ
倍満を考えると、ドラ色のソウズに寄せたくなるが、近藤の選択は打。ソウズを見切ってマンズのホンイツと国士に狙いを絞る。
11巡目。
ツモ
打でようやくマンズと字牌だけになる。
16巡目。
ツモ
打發。
17巡目、ここでテンパイしなければその時点で終わりだが・・・
ツモ
なんとテンパイを果たす。
近藤は勢いよく、白を叩きつけてリーチといった。
リーチ時点ではヤマに残り1枚。
近藤の最終手番にしてハイテイ。
ヤマに手を伸ばす近藤。
近藤は言った。
「自分の人生のすべての運を使い果たしていいから、が欲しかった」
近藤が、ツモった牌をぎゅっと握って凝視する。
そして、力なく牌を河に置く。
テンパイを宣言する。
点棒を受け取る。
【女王の所作】
ノーテンを宣言する。
点棒を渡す。
挨拶する。
席を立つ。
泣く。
魚谷は泣いた。
魚谷はいつも、「ギリギリの勝利ほど涙が出る」のだと言う。
今回は、オーラス倍満をツモられなければOKという条件だ。
傍から見れば、これはかなり余裕を持った圧勝である。
しかし、魚谷は言った。
「倍満ツモられてしまうんじゃないかと思ってドキドキしていた」。
この圧勝は、魚谷本人にとっては薄氷の勝利なのである。
それは、近藤に「凄まじい必死感」と言わせるほど自分を追い込んで掴んだ勝利だった。
自分をギリギリまで追い込んで得た勝利だから、価値があるのだ。
そんな勝利だから、緊張の糸が切れた瞬間、魚谷はいつも自然と涙がこぼれてしまう。
そして、女王には、嬉し涙がよく似合う。
第12回モンド王座決定戦 優勝(2連覇) 魚谷侑未
完