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密着!モンド麻雀プロリーグ観戦記

第13回女流モンド杯決勝戦観戦記 文:鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)

「飯田は、お前らとは背負ってるものが違ったんだと思うぞ」

競技麻雀愛好家の父が、電話口で言った。
モンドでも活躍した飯田正人永世最高位が亡くなった数日後のことである。

飯田が何を背負っていたのか、今となってはわからないが、少なくとも最高位戦という看板を先頭で背負っていたことに間違いないだろう。

モンドを視聴されている方の多くは、選手個人を応援されているはずだ。
見方としてはそれが正しい。

しかし、選手はといえば、気持ちのどこかに団体を背負っている。
だから余計にプレッシャーがかかるし、負けたときには悔しさと申し訳なさが増幅されるのだ。

飯田は、そんなプレッシャーの中で、何十年も最前線で、最期まで、最高位戦の代表として必死に戦った。
そして、第6回モンド名人戦を勝ち、この世を去った。

あれから3年。


第13回女流モンド杯、決勝戦開幕。

【決勝進出者】
魚谷侑未(日本プロ麻雀連盟)
宮内こずえ(日本プロ麻雀連盟)
二階堂瑠美(日本プロ麻雀連盟)
茅森早香(最高位戦日本プロ麻雀協会)

以下、準決勝敗退
愛内よしえ(日本プロ麻雀協会)
黒沢咲(日本プロ麻雀連盟)
高宮まり(日本プロ麻雀連盟)
和久津晶(日本プロ麻雀連盟)

以下、予選敗退
池沢麻奈美 (日本プロ麻雀連盟)
水城恵利(日本プロ麻雀協会)
二階堂亜樹(日本プロ麻雀連盟)
和泉由希子(日本プロ麻雀連盟)

決勝の会場に入ると、声をかけられた。

「えっ、なんでいるの?」

女流の対局にもかかわらず、男性の筆者が会場入りしたことを疑問に思ったのだろう。
茅森が興味を持った様子で話しかけてくる。

― 観戦記者やることになりました。

「そうなんだ。モンドの観戦記とかもやるんだね。がんばって!」
そう言うと、急に興味がなくなったようにどこかに行ってしまった。

いやいや、がんばるのはそっちだから。
相変わらず掴みどころがない。
猫みたいなやつだ。
茅森に限っては、プレッシャーを感じたり、何かを背負って打つことなんてないのだろう。

第2回大会で優勝しているとはいえ、久しぶりのモンド。
現モンド王座魚谷を筆頭に、モンド麻雀プロリーグに長年出場し続ける宮内・瑠美という猛者が相手でも、この様子である。


▼▼▼1回戦(全2回戦)▼▼▼

起家から魚谷、宮内、茅森、瑠美。

【スピードにはスピードを】
東1局ドラ

魚谷が開局わずか4巡でオヤリーチをかける。

魚谷らしい、スピードと打点の折り合いがついた愚形リーチだ。

このリーチに対し、ドラアンコの宮内が押し返す。
大胆にマンズを払っていき、マンズの無スジをほぼすべて通した宮内。
14巡目にこうなった。
 ツモ

自身がマンズの無スジをほぼ通していることと、ピンズ・ソウズもかなり通っていることから、そろそろスジも追いたくない頃合い。
14巡目という深さも考えれば、という2枚の現物を抜いていくかと思われたが、宮内の判断はまだ押し。
が2枚切れでカンやペンの可能性が若干低くなっていることもあり、リーチ後に切られたのスジで打
次にを勝負する予定だったが、先にこのが捕まって3900放銃となった。
 ロン ドラウラ

全2回戦の短期決戦ということを加味しても、14巡目でリャンシャンテンの手牌ではさすがに押しすぎに見える。
仮に押すのであればからが正着だろう。
宮内が少し前傾にバランスを崩しているように見えた。


東1局1本場ドラ
魚谷28900、宮内21100、茅森25000、瑠美25000

茅森の4巡目。
 ツモ
打点を追えば打などもあるが、ノータイムで切りリーチといった。
この選択を含め、ほとんどの打牌をノータイムで選択できるのが茅森の強さ。

これに対して、オヤの魚谷が反撃。
浮かせていたドラがくっつき、7巡目に追いかけリーチ。

ドラ表示牌の苦しい待ちだが、こちらもノータイムで選択していく。

ここは茅森に軍配。
 ツモ ドラウラ
500・1000は600・1100で、先行した魚谷の加点を許さず、きっちりオヤ番を落としていく。


【瑠美の一気攻め】

東2局ドラ
宮内20500、茅森28300、瑠美24400、魚谷26800

ドラを浮かせたイーシャンテンとなっていたオヤ宮内の9巡目。
 ツモ
オヤということもあり、ここからチートイツの受け入れも増やす打とする。

すると、瑠美がをポンしてテンパイ。
 ポン
次巡に宮内がを掴み、瑠美が8000をアガった。

初の長打は瑠美。
そして、ここから、瑠美の攻撃が続く。


東3局ドラ
茅森28300、瑠美32400、魚谷26800、宮内12500

ここでも瑠美が真っ直ぐに進めて9巡目にリーチで先制する。


すると、配牌ドラアンコだった茅森が次巡に追いついてオヤリーチ。


このリーチに挟まれたのが、またも宮内。
安全牌がなくなった宮内は、オヤである茅森の現物を抜き、瑠美に放銃となった。
 ロン ドラウラ
ウラドラがで痛恨の5200。
瑠美がこれで頭一つ突き抜けた。


東4局1本場供託2000点ドラ
瑠美39100、魚谷25300、宮内7800、茅森25800

瑠美に追いつきたい魚谷が、最速マーメイドの真骨頂を見せる。

4巡目ながらピンズは場に安く、両方のカンチャンターツを残したくなるところ。
いわゆるスピード系の打ち手ならそう考え、何の迷いもなくを打つだろう。

しかし、魚谷は打
を払っていく選択をする。
これは意外だった。
スピードの観点から1手先でロスにならないではなく、魚谷はドラ引きへの対応とタンヤオへの変化という、「打点の観点」からロスがない1打を選択したのである。
スピードを殺さず、無理ない範囲で打点を追う。
スピードだけを追うのではない、真の最速手順だ。
実戦でもこれがピタリとはまり、ノーミスで8巡目リーチにたどり着いた。

モンド王座を制した勢いそのままに、最速マーメイドが躍動する。

しかし、簡単に一人旅をさせてもらえないのがこのメンバー。
瑠美がのピンフドラ2で次巡に追いつく。

場にはが1枚切れで、は生牌。 瑠美は言う。
がすごく薄いと思ったため、アガれたらラッキーぐらいに思っていた」
その言葉通り、瑠美は現物待ちでもないをヤミテンに構えた。

確かに、宮内がソウズのホンイツで仕掛けており、全体的にもソウズは場に高い。
そこまではわかるが、全2回戦の短期決戦でこれをヤミテンにできる心構えはすごい。
実際にこの時点でがヤマに2枚残っているだけだったのだが、いくらそれがわかっていても「リーチ」という楽な道に逃げてしまいたくなるもの。

しかし、瑠美はリーチという選択に逃げず、自分の感覚を信じてヤミテンを選択した。
ヤミテンでも押すのは押すのだが、最後の最後に危険牌を引いたとき、入れ替えやオリの選択肢を残せるようにである。
例えばなどは切りたくなかった、と瑠美は対局後に話した。
実際には終盤に危険牌を引くことなく、魚谷との2人テンパイに持ち込んだのだが、瑠美としては「ノーテン罰符をもらえただけラッキー」ということなのだろう。
この手牌で供託を出さずにノーテン罰符を得たのには、驚嘆した。


【茅宮抗争勃発】

東4局2本場供託3000点ドラ
瑠美40600、魚谷25800、宮内6300、茅森24300

大きく沈んでいる宮内が、9巡目にのホンイツテンパイ。

が4枚切れであるため、ヤミテンで待ち替えを狙う。
すると次巡に絶好の白を引いて、待ちへ。
直後に茅森がをツモ切り、宮内が8000は8600をものにした。
 ロン

手牌が勝負する形になっていなかった茅森としては、手痛い放銃。
宮内の河はピンズ・マンズ中張牌の打ち出しから、字牌を挟まずに打であり、ホンイツのテンパイには見えなかったか。
宮内はこの一発でラス抜けし、南場を迎える。


南1局ドラ
魚谷25800、宮内17900、茅森15700、瑠美40600

前局の放銃でラス落ちした茅森が、ドラトイツの配牌をもらうと、真っ直ぐ進めて7巡目テンパイ。
 ツモ
宮内の第1打がで、が生牌であるため、単純枚数ではカンの方が1枚多いが、茅森の選択は打リーチ。 いつものように飄々とノータイムでリーチをかけた。
ラス目ということもあり、ドラツモウラ1のハネ満を狙っていったのだが、これが功を奏し、なんとを一発ツモ。
 ツモ(一発) ドラウラ
3000・6000で茅森が一気に2着目まで駆け上がる。


南3局ドラ
茅森23800、瑠美41500、魚谷19800、宮内14900

前局瑠美の仕掛けに3900放銃した茅森は、オヤ番を迎えて13巡目にドラ切りテンパイを果たす。


そのドラをポンしてテンパイは宮内。
 ポン
の片アガリだが、巡目の深さを考えれば贅沢を言ってはいられない。

すると茅森がツモでカンへ手替わりし、ヤマに1枚だけ残っているをめぐる攻防となった。 そこで、茅森に訪れた選択の機会。
 ツモ
茅森は、サンアンコを見て打とする。
 ポン ロン
これが宮内に捕まり、8000。
宮内が2着目に浮上する。


南4局ドラ
瑠美37600、魚谷19800、宮内22900、茅森15800

オヤの瑠美が5巡目にこのリーチで素点を稼ぎにいく。

これに対し、1巡前にテンパイしていた魚谷もカンからに手替わりし、直後に追いかけリーチ。


しかし、ここは魚谷がヤマに4枚残りのを引いて3900放銃。
 ロン ドラウラ東
先に魚谷がカンでリーチをかけていると瑠美もリーチにいけなかった可能性が高い局面だっただけに、魚谷としては少し悔やまれるところか。


南4局1本場ドラ
瑠美46400、魚谷14900、宮内22900、茅森15800

瑠美のトップが決定的となった今、3者としては少しでも上の順位でアガって終わらせたいところ。

そんな中、無理なくソウズに寄せた宮内が、仕掛けて7巡目にマンガンのテンパイを果たす。
 チー ポン

この仕掛けに対し、愚形だらけのリャンシャンテンから追いついたのが茅森。
ヤマに残っていそうなカンで、13巡目に覚悟のラス落ちリーチ。
 
はヤマに4枚残っている。

すると、宮内がを掴む。
 チー ポン ツモ
でオリることもできるのだが、ドラも3枚切れており、茅森が珍しく少考してのリーチだったため、打点が足りない可能性が高いと踏んでをツモ切った。
 ロン ドラ
ご名答。宮内の読み通り打点は足りない。

しかし、ウラがで5200は5500。
なんとこれで茅森が2着に浮上して1回戦を締めくくった。

1回戦結果
瑠美56.4
茅森1.3
宮内△22.6
魚谷△35.1

ホワイトボードに貼られた点数表を見て、茅森が真面目に点数をメモしている。
そういえばあまり見ない光景だ。
珍しいね、と声をかけると、「私、こういうので接戦になったことがないから」だそう。
よくわからんやつだ。

なお、現モンド王座の魚谷が優勝した場合、準優勝者がモンド王座に出場することとなる。


▼▼▼2回戦(最終戦)▼▼▼
起家から茅森、瑠美、宮内、魚谷。

【王座の逆襲】

東1局ドラ

瑠美がこの配牌にツモ
 ツモ
ドラがなのだが、ここからほぼノータイムでをツモ切ってホンイツで決めにいく。
2巡目に茅森から切られたに目もくれず、ヤマに手を伸ばした。
マンガンが見えない限り仕掛けない構えだろう。
すると、12巡目に瑠美が門前でテンパイを果たし、ヤミテンとする。


一方、前回ラスのモンド王座魚谷も黙っていない。
同巡に魚谷もメンホンテンパイ。

こちらはリーチに踏み切った。

これを受けて、瑠美が次巡に安全牌のをツモ切って追いかけリーチに出る。
このリーチ判断には、大きく2つの要素があると思われた。

1つ目は打点の上昇。
リーチをかけると出アガリでも12000になる。

2つ目は、リーチで挟むことによる脇からのあぶり出し。
魚谷の河にがあるためヤミテンでもよさそうだが、この局面ではリーチしても若干の出アガリ率低下で済みそうだ。
通常、現物待ちなら安全牌を切ってのツモ切りリーチにはならない。その上で、魚谷の河にはほぼマンズ、瑠美の河にはソウズとピンズが切れており、共通安全牌が探しにくい状況となっている。
ならば、先行リーチの現物しか打つ牌がなく、リーチをかけてもがそれなりに打たれやすいとの思考か。

しかし、ここは他家が手詰まる前に魚谷がをツモって3000・6000。
 ツモ ドラウラ
モンド王座の逆襲が始まった。


東2局ドラ
瑠美21000、宮内22000、魚谷38000、茅森19000

宮内が6巡目にドラを引いてリーチをかける。

自身でを切っている1枚切れので、ヤマに2枚残っている。

これに対し、まだまだ素点がほしい魚谷が8巡目に追いかけリーチ。

のアンカン後、宮内がを掴んで8000。
 アンカン ロン ドラウラ西
これで少し魚谷の優勝が見える。


東3局ドラ
宮内13000、魚谷47000、茅森19000、瑠美21000

トップ目に立ってもまだ足りない魚谷は、5巡目にここから積極的にをアンカンしていく。
 ツモ
一見すると、もう1手進んだところがカンのタイミングに見える。
しかし、両面が1つでき、雀頭もすぐにできることを考えれば、確かにここがカンのタイミングか。

カンが入ったこともあり、瑠美が11巡目にリーチをかけていく。
 ドラ

これに対して魚谷もすぐに追いつく。
 アンカン ツモ
スーアンコまで見て少考が入ったが、ここはトータルトップ目である瑠美直撃のチャンスを優先し、リーチを決断する。
これを狙い通り瑠美からの直撃に成功。
 アンカン ロン ドラウラ
ウラ3で、魚谷が瑠美から8000を奪い取る。
瑠美をラスに落としたことで、なんと魚谷がトータルトップに躍り出た。

たった3局。
モンド王座が堂々と正面からまくっていった。


【茅森が参入し、三つ巴に】

東4局ドラ
魚谷56000、茅森19000、瑠美12000、宮内13000

ここで奮起したのが1回戦目2着の茅森。
魚谷が走り、瑠美がラス目になったことで、素点を積み重ねればよくなった。
その茅森が配牌からソウズに寄せて、9巡目リーチ。

ヤマにはが1枚のみ。


12巡目には瑠美がドラを重ねて生牌の南待ちチートイツのリーチをかけるも、同巡に茅森がラス牌のを手繰り寄せ、3000・6000。
 ツモ ドラウラ
このアガリで、トータルでは瑠美と並び、魚谷まで約1万点差まで迫る。


南1局ドラ
茅森32000、瑠美8000、宮内10000、魚谷50000

カンが入っていることもあり、13巡目に茅森が積極的にリーチ。


すると同巡、宮内も絶好のを引いて追いかけリーチをかけた。


この2軒リーチに対し、魚谷もドラをアンコにしてテンパイを果たす。

が1枚ずつ切れていて待ちとしては厳しいが、14巡目という深さを考え、リーチを決断する。

このリーチ合戦の結果で状況が大きく動く。
結末は・・・

 ロン ドラウラ
魚谷が掴んで宮内に8000を放銃。
これで魚谷、瑠美、茅森がトータルでほぼ並んだ。


南2局ドラ
瑠美8000、宮内20000、魚谷41000、茅森31000

好機到来とばかりに茅森が攻めたてる。
6巡目にノータイムでドラ切りリーチ。

リーチのみのシャンポンだが、ここはアガリやノーテン罰符を取ることを優先し、ノータイムで即リーチを選択した。

これで困ったのが魚谷。
9巡目には安全牌がなくなる。

いざとなったときにもう1枚切っていけるよう、トイツの牌を選ぶことになる。
茅森が3巡目にを打っているため、を持っている可能性が通常より高いと見れば、になっている可能性は若干低下する。
また、魚谷自身でを2枚使っており、若干ながらの可能性が低下している。
魚谷が出した結論は打

 ロン ドラウラ
しかし、このがシャンポンという思わぬ形で捕まり、魚谷が茅森に1300放銃。
これでトータルの点差は、魚谷―0.2―瑠美―0.8―茅森という1000点以内に3人がいる展開に。
この三つ巴で、残りは2局。


【冷静に打つ】

南3局ドラ
宮内20000、魚谷39700、茅森32300、瑠美8000

女流モンド杯に先立ち、参加者が自身のサインとともに書いた一言がある。
「がんばります」「今年こそ勝ちます」のような意気込みが目立つ中、茅森はいつも心に誓っている言葉を書いた。

「冷静に打つ」

普通だ。
拍子抜けするぐらいに。
しかし、茅森にとって、正にそれを試される局面がやってくる。

11巡目、茅森がフリテンのを引き戻してテンパイを果たす。
 ツモ

は他家全員が1枚ずつ切っていて3枚切れ。
ドラのは、ソウズのホンイツ一直線の瑠美が、序盤に1枚切っている。

リーチという選択もある。
リーチをかけてをツモり、勝負を決めにいくという発想だ。
例えばドラのをツモってウラが乗ればマンガンだ。
タイトル戦決勝最終戦のラス前、気持ちが高ぶっていると、そういう選択をしがちだ。

しかし、この状況ではどうだろう。
果たしてマンガンツモで勝負が決まるのか。
仮にここでマンガンや1300・2600をツモったとしても、結局オーラスでは魚谷とのアガリ競争になる。
瑠美には多少条件を突きつけることができるが、瑠美をアガリ競争から排除することにあまり意味はない。
ならば、ひとまずアガって宮内を排除し、いずれにしても次局に生じることとなるアガリ競争に持ち込むことの方がよさそうだ。

茅森は、いつも通り冷静に、打のヤミテンを選択した。

すると、直後にオヤの宮内がテンパイ。

ともに2枚切れだが、18000になるが2枚ヤマに残っている。
宮内はそっとヤミテンを選択。

これに放銃したプレイヤーは、宮内と入れ替わりで優勝戦線から脱落する。
会場のボルテージも上がる。
観戦者全員が宮内の手牌に注目する。
どうなるのか、誰が放銃するのか。
仮にツモったら四つ巴となる。

 ツモ 魚谷がトイツ落とし中のを切る。

どうなるのか、宮内の手はアガれるのか・・・ん?

 ロン
茅森の冷徹なヤミテンが、会場の熱気を切り裂いた。
宮内テンパイから、わずか2秒後の出来事。

対局後、魚谷は語った。
「茅森がリーチしていれば打たないだった」
茅森の冷静さが場を制圧した瞬間だ。


【背負う者】

南4局ドラ
魚谷38700、茅森33300、瑠美8000、宮内20000

茅森―0.2―瑠美―0.8―魚谷
これで茅森がトータルトップでオーラスを迎えた。
優勝条件としては、茅森、瑠美がアガリトップ。
魚谷もアガるとトータルトップになるが、オヤであるため次局に持越し。
宮内は倍満ツモ、他家のリーチがかかれば供託を含めてハネ満ツモで足りる。

最初に動いたのは茅森。
2巡目に1枚目のオタ風をポンしていく。
 ポン
すぐにツモ打でイーシャンテンへ。
 ポン

すると、黙って見ているわけにはいかない魚谷が、7巡目にここから茅森のをポンして、茅森に食らいつく。

バックの構え。

茅森の8巡目、ツモで2枚切れのペンテンパイ。
 ポン

15年前、最高位戦に入会した少女は、対局時の緊張とは無縁だった。
だが、茅森はいつしか、緊張することが出てきたのだと言う。
世間から受ける評価が上がっていくにつれてだ。
今、茅森は世間からの評価と期待を背負っている。

また、最近になって、茅森には最高位戦を背負っているという自覚が芽生えたのだそうだ。
「もう、みんな後輩だしね」
茅森は軽く言ったが、軽いわけはない。

茅森のツモる手が、かすかに震えている。
今までとは重みが違う。
1牌1牌が重い。
そうだ、これが背負うってことだ。

茅森がをツモる。
 ポン ツモ
とのシャンポンも選択できるが、少考してペンを継続。

最高位戦に所属する者は、会場中に茅森と私の2人のみ。
お願いします、アガらせてください。
自分以外の麻雀で、こういう気持ちになることがあるのだな。
この感情が、観戦記者として正しいのかはわからない。
ただ、最高位戦の看板を背負っている者が目の前で戦っているのだ。
自分が応援しないでどうするのか。
しかも、茅森だ。
正直、茅森が何かを背負って打つなんてことはないと思っていた。
自由奔放、天真爛漫、意味不明。
その茅森が背負って戦っているのだ。

ツモ切り。

ツモ切り。
手が震え、切った牌が少し斜めになる。

ツモ切り。
いつものように切る。
うん、大丈夫。冷静だ。

そして、筆者の願いとは関係なく、茅森はいつも通り冷静にを置いた。
 ポン ツモ

第13回女流モンド杯 優勝 茅森早香 (最高位戦日本プロ麻雀協会)


気付くと、茅森が表彰式でインタビューに答えていた。

― 最後のテンパイが入ったとき、どう思っていたのか?
「お願いしてました」
ははっ、奇遇だな。

― 最後、ツモったときは?
「やったあ」
満面の笑顔でこう言った。
そうか。茅森が勝つとこうなるのか。
勝って自然と涙があふれる魚谷とは、えらい違いだな。

表彰式も終わり、その場にいた者で祝勝会に流れた。
祝勝会も終わり、みなが帰り支度を始めたころ、私は茅森に近づいた。
「おめでとう」
ようやく口にし、右手を差し出した。
何やら茅森も少し照れくさそうに、右手を返す。
共に10年以上最高位戦に所属しているが、握手など、当然初めてだ。

勝利を掴んだ小さな右手に、精いっぱい礼をこめる。

勝ってくれてありがとう。
感動をありがとう。
飯田が、金子が、新津が、村上が、命懸けで守ってきた最高位戦という看板を、背負ってくれてありがとう。


帰省すると、いつものように父がソファに寝転がって麻雀番組を観ている。
奇遇にも、第13回女流モンド杯の予選だ。

茅森ファンの父が言う。
「なあ、やっぱ茅森ってのは強いな」

― ははっ、そりゃそうだろ。

背負ってるもんが違うんだから。





文:鈴木聡一郎プロ(最高位戦日本プロ麻雀協会)