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密着!モンド麻雀プロリーグ観戦記

第10回モンド名人戦決勝戦観戦記 文:鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)


【私、優等生やめました】

予選第1戦目の開始前、近藤は次のように語った。
「偉大な先輩方ばかりなので、最上級の礼を尽くそうと思います」

これだけを聞けば、なるほど、謙虚な近藤らしい優等生の回答である。
しかし、近藤はさらに続けた。

「この場合の最上級の礼とは、徹底的に叩きのめすことだと思っています」
これは、相当の自信がなければ言えないだろう。
モンド名人戦には1年空けての出場となったが、私は、この2年間で、近藤の麻雀がかなり変化し、完成されたものになったと感じている。

近藤から発せられた上記の言葉は、その自信の表れと受け取った。
近藤の変化、それは決勝前のインタビューで本人が言った、「細かいことをあまり考えずに思いっきり戦いたいと思っています」という言葉に集約されている。

理を考えるのではなく、感覚で打つ。
それが、かなり完成形に近づいたのだ。

<第16回モンド杯決勝進出者>
土田 浩翔 (最高位戦日本プロ麻雀協会)
近藤 誠一 (最高位戦日本プロ麻雀協会)
古川 孝次 (日本プロ麻雀連盟)
荒 正義  (日本プロ麻雀連盟)
以上の4名で2半荘を打ち、合計点で優勝が決まる。

▼▼▼▼▼1回戦▼▼▼▼▼
起家から、土田、荒、近藤、古川。

【水面下の名人戦】

▼▼東1局▼▼ドラ

 ツモ

まずは、荒が絶好のドラを引いて7巡目にテンパイ。
カンはオヤの土田が第1打に切っており1枚切れ。
愚形ながらリーチをかければ5200であるため、現在の主流はリーチだろう。
おそらく、モンド杯に出場している若手~中堅クラスの打ち手であれば、ほぼ全員がリーチという選択になるはずだ。
一方、荒はというと、を打ってヤミテンに構える。
そして次巡、を引いてこのリーチ。



このリーチに対し、古川が待ってましたとばかりに、前巡に抱えておいた現物のを切ると、土田から声がかかる。

 ロン

荒がヤミテンに構えた1巡の間に追いついていた土田だったが、こちらもオヤのピンフをヤミテンに構えていた。
一手替わりで高目三色になるが、やはりこれも主流はリーチ。


名人戦らしい水面下の探り合いで、決勝戦が幕を開けた。


【名人同士のガチンコ殴り合い】

▼▼東1局1本場▼▼ドラ
土田275 荒240 近藤250 古川235
ヤミテンでの探り合いが続くかに思われた東2局、モンド名人生初出場の古川が7巡目にリーチといった。

 

すると、またもや前巡にヤミテンを入れていた土田。
 ツモ

珍しい土田のチートイツヤミテンである。

土田はチートイツに早めに照準を合わせるため、即リーチにいける牌しか残っていないことが多く、基本的にはチートイツをヤミテンにしていることが少ない。
しかし、今回は珍しくメンツ手から移行してきたばかりで、は納得のいかない待ちだったのだろう。これをヤミテンに構えていた。
そこで掴んだだが、土田はノータイムでをツモ切り、古川に放銃。

 ロン(一発) ドラウラ

ウラも乗って8000は8300となった。
すると、これを皮切りに、大打撃戦となっていく。

▼▼東2局▼▼ドラ
荒240 近藤250 古川318 土田192 
まずは近藤が4巡目ポン、6巡目チーで高目ドラのシャンポンテンパイを果たす。

 チー ポン

ドラが出ることは期待していないだろうが、荒が7巡目にこうなってしまう。

 ツモ

メンホンのイーシャンテンとあらば、守備の堅い荒とて、ドラを打ちたくなるもの。
結果、荒が近藤に8000放銃となった。

 チー ポン ロン

▼▼東3局▼▼ドラ
近藤330 古川318 土田192 荒160 
その荒が失点を取り返すべく5巡目にドラ切りリーチ。



土田も仕掛けて応戦する。

 ポン チー この2軒テンパイに対し、第1打にドラを打っていた大本命古川が追いついてリーチ。



3者のめくり合いを制したのは、枚数では不利だった荒。

土田がを掴んで1300となった。

 ロン ドラ ウラ

▼▼東4局▼▼ドラ
古川308 土田179 荒183 近藤330 
今度は、ラスに転落した土田が7巡目リーチ。



同巡、トップ目の近藤。

 ツモ

捨て牌のヒントも少なく、自らの手牌が良いこともあり、これをツモ切り。

 ロン(一発) ドラ ウラ

この8000直撃で微差ながら土田が一気に2着まで浮上した。

▼▼南1局▼▼ドラ
土田259 荒183 近藤250 古川308 
しかし、放銃した近藤も黙ってはいない。

 ツモ

ヤミテンを9巡目にツモって700・1300。
トップ目の古川に迫る。

▼▼南2局▼▼ドラ
荒176 近藤277 古川301 土田246 
すると今度はトップ目の古川が9巡目にドラ切りリーチで引き離しにかかる。



そのドラを土田が仕掛けて打とし、古川がアガった。

 ロン ドラ ウラ

しかし、ウラが乗らずに1600。
まだまだトップ争いの行方はわからない。

ここまで流局が1度もないほどの乱打戦。
ベテラン同士が足を止めての壮絶な殴り合いを繰り広げた結果、まだ全員にトップの可能性がある接戦となっている。

▼▼南3局▼▼ドラ
近藤277 古川317 土田230 荒176 
すると、2着目につけていた近藤が、絶好のドラを引いて8巡目にオヤリーチ。



はヤマにごっそり生きている。
そして終盤にをツモると、ウラも乗って4000オール。

 ツモ ドラ ウラ

これで大勢が決した。

この後、古川や土田が追いすがるも、近藤までは反撃の刃が届かず、近藤が初戦をトップで折り返した。

1回戦結果
近藤 +48.7
古川 +9.7
土田 ▲20.0
荒  ▲38.4



▼▼▼▼▼2回戦(最終戦)▼▼▼▼▼
起家から、古川、土田、近藤、荒。


【古川のリズム】
▼▼東1局▼▼ドラ
よく仕掛ける古川の打法は、いつしか「サーフィン打法」と呼ばれるようになった。
古川麻雀の核にあるのは、ホップステップジャンプの「ジャンプ」の見極めだ。
おそらく、前回微妙な2着の引き方をしたため、古川はいきなりジャンプがくるとは思っていないのではないだろうか。

そんな古川に、オヤで11巡目にテンパイが入った。

 ツモ

国士気配の近藤がいて、が1枚切れであるため、にはあまり期待できない。
場を見渡せばピンズが安く、1枚切れのカンなら十分勝負になる。
しかし、古川は切りリーチといった。
これはおそらく、相手に対応させることを前提に、自分の河に置いてあるが打たれ、があぶり出されることを想定した一手である。
裏を返せば、自力で引きにいったリーチではなく、古川が言うところのホップやステップの段階に相当するのだと思われる。

同巡に土田から追いかけリーチが入るが、古川が一発目に引いた牌を叩きつけた。

 ツモ(一発)ドラ ウラ

少し想定した形とは違ったが、望外の4000オールで一気にトータル首位に浮上。
前回2着の古川は、このままトップを守り切ればほぼ優勝である。

【土田のリズム】
▼▼東1局1本場▼▼ドラ
古川380 土田200 近藤210 荒210
土田が3巡目に1枚目の中をポンして、遠くて安いこの仕掛け。

 ポン

実は、この仕掛けこそが土田を支えているものである。
開局と同時にオヤの古川が走った。ここで二の矢を放たれるときつい。
そんなとき、「ヤバイ」という感覚に身を任せ、しっかりと仕掛けていける。
その自己犠牲とでも言うべき自らへの厳しさが、土田を支えている。

10巡目には、土田の想定通り、古川からダメ押し狙いのリーチがかかる。



一方、土田もテンパイを果たしていた。

 ポン

土田はノータイムで無スジをツモ切りし、すぐにツモで、300・500は400・600。 まずは古川のオヤを落としに成功する。

▼▼東2局▼▼ドラ
土田224 近藤206 荒206 古川364 
西家荒が、西、をポンしてテンパイ

 ポン ポン そこに、土田が13巡目にフリテンリーチで応戦すると、終盤に最後の1枚となったを引いて4000オール。

 ツモ ドラ ウラ

攻めるときには、フリテンでも関係ない。
前局のかわし手と、今局の大胆な攻撃。
チートイツばかりに目がいってしまう土田だが、実は「かわし手→勝負手」というこのようなリズムが、土田に多くのタイトルをもたらしてきたのである。

【逆襲の荒】
▼▼東2局1本場▼▼ドラ
土田344 近藤166 荒166 古川324 
このまま土田が突き抜けるかと思われたが、前回ラスで今回もラス目に甘んじていた荒が、ついに6巡目リーチ、終盤ツモで反撃を開始する。

 ツモ ドラ ウラ

1000・2000は1100・2100でラス抜けを果たす。


▼▼東3局1本場供託1000点▼▼ドラ
近藤175 荒199 古川303 土田313 
すると、ここでも荒が6巡目に5200のヤミテンで、リャンペーコーへの手替わりを待つ。



これに対し、オヤの近藤から8巡目リーチがかかった。



一発目にをツモ切って押した荒だったが、9巡目にを引いて手を止める。

 ツモ

はいずれも無スジだが、が自分の目から3枚見えているため、はワンチャンス。
なんと荒は、ここからを切ってのイーペーコー崩しリーチを敢行した。



これをツモって2000・4000は2100・4100。
僅差ながら、荒がこの半荘のトップ目に立つ。

▼▼東4局▼▼ドラ
荒302 古川282 土田292 近藤124 
近藤がラス目、古川が3着目であるため、このままの着順で2着以下を引き離せば優勝となる荒は、さらに畳みかける。
古川のポンの一色手仕掛けに対し、荒が5巡目にドラの切りリーチ。



 ポン ポン
古川がここからをツモ切りして荒に2000。

 ロン ドラ ウラ

▼▼東4局1本場▼▼ドラ
荒322 古川262 土田292 近藤124 
ここでも荒が6巡目に1枚目の中にポンテンをかける。

 ポン

すると、9巡目に近藤がリーチ。



この手順すごい。



ここからイッツーを見ずに打とし、を残す。そして、残したにズバリを引いて3面張のリーチである。
これには近藤も良い感触を感じているはずだが、同巡、アガリ牌をツモったのは荒だった。

 ポン ツモ

700は800オール。

▼▼東4局2本場▼▼ドラ
荒356 古川254 土田284 近藤106 
これで逆転優勝までひとアガリというところまできた荒だったが、古川が7巡目のチーテンをすぐに土田からアガり、2600は3200で荒のオヤを落とす。

 チー アンカン ロン ドラ ▼▼南1局1本場供託1000▼▼ドラ
古川296 土田222 近藤116 荒356 
古川が2着目になったことで、古川に対して歩が悪くなった荒。
古川にオヤかぶりさせるべく、7巡目リーチをかけると、あっさりツモ。

 ツモ ドラ ウラ

しかし、ウラは乗らず、700・1300は800・1400。
荒はこのアガリにより、トータルで近藤をまくった。

【考えない】
▼▼南2局1本場供託1000▼▼ドラ
土田234 近藤98 荒386 古川272 
あとは古川を引き離すだけの荒が、2枚目のをポン、チーと2つ仕掛けた。

XXXXXXX チー ポン

この仕掛けが入る直前、イーシャンテンからノータイムでドラの中を切っていた近藤。

 ツモ

ここへきて生牌のを掴む。
荒が2つ仕掛けてホンイツのみということは考えにくい。
おそらく翻牌は絡んでいるだろう。
残る翻牌はの2種類のみ。
考えれば考えるほど打てなさそうなだが、近藤は考える間もなく、を河に叩きつけた。
勝負所と捉えて完全に腹を括っている。
このは、さながら、荒への挑戦状である。

土田も三色のイーシャンテンからをツモ切ると、荒がポンしてテンパイ。

 ポン チー ポン

これに対し、12巡目に近藤がようやくテンパイを果たす。

 ツモ

が自分から4枚見えており、は荒が切っている1枚だけ。
古川・土田は、ある程度荒に対応しているように見えるため、荒の現物で、かつ手牌には使えないはずのが切られていないということは、3枚ヤマに生きている可能性が高い。
このような理はある。

ただ、理ではないのだ。
近藤は言う。
「飯田(永世最高位)さんの系譜を継ぐのは自分だと思っていたから、飯田さんが亡くなって、感覚派の打ち手という道を究める覚悟ができた。だから、最近は感じるままに打っている」
さらに続ける。
「打牌に時間がかかっているときは調子が悪いとき。理で考えてしまっているときだから」

そう、このときも、近藤は確かにスッとリーチをかけた。
勝負がかかった一打であるのにもかかわらず、である。

そして、力強く、を一発で引いた。

 ツモ(一発) ドラ ウラ

2000・4000は2100・4100。
なるほど、ノータイムで打てているときは、か。
近藤が感性と決意の一発ツモで、再びトータルトップに返り咲いた。


【近藤vs荒】
▼▼南3局▼▼ドラ
近藤191 荒365 古川251 土田193 
近藤に逆転を許した荒だが、やはりこのまま差を広げれば再逆転できる。
その荒が8巡目にをポンしてドラ2のイーシャンテン。

 ポン

これに対して、近藤が13巡目にオヤリーチをかけていく。



荒も一発でを勝負し、近藤がツモ切ったをチーしてマンガンテンパイ。

 チー ポン

決着は一瞬だった。
勝負所を制したのは荒。
テンパイ即ツモの2000・4000で、なんと1回戦4着スタートの荒がトータル首位に立ってオーラスを迎えることとなった。

【勝つしかない】
▼▼南4局▼▼ドラ
荒455 古川231 土田173 近藤141 
優勝条件は下記。

<近藤>荒との素点を4300点詰めればよく、土田をこの半荘の着順でまくってもよい
<古川>現状近藤とトータル同点のため、基本的には荒との素点を4300点詰めればよいが、土田からアガると近藤がこの半荘の3着に浮上してしまうため、土田からはアガれない
<荒>近藤・土田間がノーテン罰符で変わる可能性があるため、流局ノーテン宣言をしにくい。まずはひとアガリを目指すといったところ。
<土田>この着順のままトップをまくればよいため、3倍満ツモか荒から倍満

8巡目、最初にテンパイにたどり着いたのは近藤。

 ツモ

リーチをかければどこからでもアガれるが、1000点供託してしまうと、荒が流局時にノーテンで終了できるようになってしまう。
ヤミテンなら、土田からの直撃かツモアガリのみになるが、どうするか。
やはり、以上のような理はある。

ただ、もう判断基準はそういうところではないだろう。
近藤の左手が、スッとを抜き、横に曲げた。
あとは、どういう形でもいい、でアガるだけだ。

ヤマにはごっそりいたを引けないまま終盤に入った。

流局すれば荒のノーテン宣言が待っているため、前に出るしかなくなった古川のところにが来てもツモ切られて近藤のアガリとなるが、古川のところにも来ない。

近藤の手にも力が入り始める。

ここまできて、自分の麻雀が負けるのか。

自分の感覚が負けてしまうのか。

対局後、近藤は語った。
「感覚派は、理で説明できない分、結果を出すことでしか、強さを証明できないんだよ」

最終手番1つ前、近藤が、引いた牌をゆっくりと、しかしながら力強く置いた。


 ツモ

その牌は、偶然近藤のところを訪ねてきたようにも見えたし、当然近藤が引き当てたようにも見えた。


ただ、過程ではないのだ。

近藤が風呂敷に包んで大事に持ち帰るのは、断じて過程などではなく、勝ったという結果である。

第10回モンド名人戦
優勝 近藤誠一


対局後の数ヶ月たったある日、近藤と2人で飲みにいった。
そこで私がした最後の質問を記し、観戦記を締めくくりたい。

― そういえば、最後の質問になりますけど、誠一さん、目標とかってあるんですか?

「目標?『勝つこと』だよ」

近藤は真っ直ぐに前を見て即答した。

「右脳の力を証明したいんだ。でも、世間一般では理屈のほうが受け入れられやすい。だから、右脳の力、感覚の力を証明するには、勝つことしかないんだよね。説明できないから」

「飯田さんがそうであったように、自分も勝つことだけを考えて、勝ち続けるしかないと思ってるよ」

そうか。

それが、近藤が有する唯一の理なのだと、私はこのとき気がついた。

唯一の理が「勝つしかない」なのだ。

そりゃあ、もう、勝つしかないよな、誠一さん。

店を出る近藤の背中に向かって、「これからも頼んます!」と心の中で一礼した。
近藤が「これからも勝ち続ける」と言うのだ。

応援しない理は、どこにもないだろう。